このページでは、フランチャイズ契約の締結前にFC本部から交付される「法定開示書面(情報開示書面)」について、法人が新規事業としてFC加盟を検討する立場から解説しています。
加盟後のトラブルの多くは、契約前の情報確認不足に起因します。稟議・取締役会での意思決定を担う経営層や法務・経営企画担当者が押さえておきたい内容をまとめました。
法定開示書面とは、フランチャイズ本部が加盟希望者に対して、契約を締結する前に交付・説明することを義務づけられている書面です。「情報開示書面」と呼ばれることもあります。
根拠となるのは中小小売商業振興法(小振法)第11条です。本部と加盟希望者の間には、事業内容や収益性に関する情報量の差(情報の非対称性)があります。加盟希望者が本部の説明だけを頼りに判断すると、実態と異なる期待のまま契約してしまうおそれがあります。そこで、本部側に一定の情報をあらかじめ書面で示すことを求めているのが法定開示書面の制度です。
つまり法定開示書面は、本部が加盟者を勧誘するための営業資料ではなく、加盟希望者が冷静に加盟の可否を判断するための判断材料として位置づけられた書面だといえます。
※参照元:中小企業庁「フランチャイズ契約を締結する前にチェックすべきポイント(PDF)」 (https://www.chusho.meti.go.jp/shogyo/shogyo/2021/download/r3fy-FC-all.pdf)
加盟検討時には、募集パンフレット、収支シミュレーション、フランチャイズ契約書など複数の資料を受け取ります。法定開示書面はそのいずれとも役割が異なります。
| 募集パンフレット・説明会資料 | 本部がビジネスの魅力を伝えるための資料。記載内容に法令上の決まりはない |
|---|---|
| 法定開示書面 | 法令で定められた項目を網羅して開示する書面。本部の財務状況や加盟店数の推移、訴訟件数など、本部にとって不利な情報も含まれる |
| フランチャイズ契約書 | 締結後に当事者を拘束する契約条項そのもの。法定開示書面の内容と整合しているかの確認が必要 |
いずれも加盟判断に必要な資料ですが、役割が異なります。法人として検討する場合は、パンフレットの数字だけで議論を進めず、法定開示書面と契約書の記載を突き合わせて確認することが基本になります。
交付義務を負うのは、中小小売商業振興法上の「特定連鎖化事業」を行う本部です。特定連鎖化事業とは、連鎖化事業(本部が加盟者に経営指導を行い、商品の販売などを継続的に行う事業)のうち、約款に次の2点の定めがあるものを指します。
実務上は、小売業・飲食業のフランチャイズが対象になります。業種によっては法律上の交付義務が及ばないケースもありますが、その場合でも情報開示が不要になるわけではありません。
介護、学習塾、ハウスクリーニング、修理業などのサービス業フランチャイズは、中小小売商業振興法上の交付義務の対象外となる場合があります。
ただし、公正取引委員会の「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方(フランチャイズ・ガイドライン)」では、業種を問わず、加盟者募集時に十分な情報開示を行わない、あるいは虚偽・誇大な開示を行う行為は「ぎまん的顧客誘引」として独占禁止法上問題となり得るとされています。
また、一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会(JFA)は、法定開示事項に独自の項目を加えた「開示自主基準」を定め、会員本部に「フランチャイズ契約の要点と概説」の作成を義務づけています。
そのため、法律上の交付義務の対象かどうかにかかわらず、同等の情報を自主的に書面でまとめて開示している本部は少なくありません。業種を問わず、同じ水準の情報を確認させてもらえるかどうかを基準に検討を進めるとよいでしょう。
※参照元:公正取引委員会「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方」 (https://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/franchise.html)
※参照元:一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会「法定開示書面について」 (https://www.jfa-fc.or.jp/particle/80.html)
中小小売商業振興法第11条および同法施行規則で定められた開示事項は、本部の企業情報から契約条件まで多岐にわたり、一般に22項目として整理されています。内容ごとに分けると、次のように把握できます。
| 企業情報 | 本部事業者の名称・住所、従業員数、役員の役職名・氏名 |
|---|---|
| 資本・株主 | 資本金または出資の総額、主要株主、本部が他に行っている事業の種類 |
| 子会社 | 子会社の名称および事業の種類 |
| 財務情報 | 直近3事業年度の貸借対照表および損益計算書 |
| 事業の沿革 | 当該フランチャイズ事業(特定連鎖化事業)の開始時期 |
| 加盟店数の推移 | 直近3事業年度における加盟者の店舗数の推移 |
| 訴訟件数 | 直近5事業年度におけるフランチャイズ契約に関する訴訟の件数 |
| 営業条件 | 営業時間、営業日および休業日 |
|---|---|
| 近隣への出店 | 加盟者の店舗周辺に、本部が同一・類似の店舗を出店または他人に営業させる旨の規定の有無と内容(テリトリー権・ドミナント出店) |
| 競業の制限 | 契約期間中・契約終了後の、他のフランチャイズへの加盟禁止や類似事業への就業制限などの規定の有無と内容 |
| 守秘義務 | 契約期間中・契約終了後に、知り得た情報の開示を禁止・制限する規定の有無と内容 |
| 特別義務 | 店舗の内外装工事の発注先指定など、加盟者に課される特別の義務 |
| 加盟時の金銭 | 加盟に際して徴収する加盟金・保証金等について、金額または算定方法、性質、徴収時期、徴収方法、返還の有無と条件 |
|---|---|
| 定期的に徴収する金銭 | ロイヤルティなど定期的に徴収する金銭の額・算定方法・徴収時期・方法 |
| 売上金の送金 | 売上金の全部または一部を送金させる場合の時期および方法 |
| 貸付・あっせん | 加盟者への金銭の貸付け、または貸付けのあっせんを行う場合の利率・算定方法その他の条件 |
| 相殺後の利息 | 一定期間の取引から生じる債権債務の相殺残額に利率を付す場合の利率・算定方法その他の条件 |
| 違約金等 | 契約に違反した場合に生じる金銭の支払いその他の義務の内容 |
| 商品の販売条件 | 加盟者に対して販売する商品の種類、代金の決済方法など |
|---|---|
| 経営指導 | 加盟前研修・講習の有無と内容、加盟後の継続的な指導の方法・回数など |
| 商標・商号 | 使用させる商標、商号その他の表示の内容と、使用に関する条件 |
| 契約期間等 | 契約期間、更新の条件・手続、契約解除の要件・手続、解除によって生じる損害賠償金の額または算定方法 |
※参照元:ベリーベスト法律事務所「中小小売商業振興法を弁護士が解説|フランチャイズ事業者の注意点とは」 (https://corporate.vbest.jp/columns/8422/)
中小小売商業振興法施行規則は2021年4月に改正が公布され、2022年4月1日から施行されました。この改正により、本部が把握している場合には、加盟希望者の出店予定地と立地条件が類似する既存店舗について、直近3事業年度の収支に関する事項を開示することが求められるようになりました。
開示が求められるのは、各事業年度の金額を次のように区分して示したものです。
あわせて、その店舗を「立地条件が類似する」と判断した根拠も記載事項とされています。
従来、加盟希望者が参考にできる数字は、本部が提示する収支モデルや予想売上が中心でした。しかし予想値は前提条件によって大きく変わり、人件費の上昇などが織り込まれていないこともあります。
改正によって、実際に営業している類似立地の店舗の実績値を、売上から人件費・ロイヤルティまで区分された形で確認できるようになりました。法人の新規事業として投資判断を行う際は、本部提示のモデル収支と、この実績値を並べて比較することで、計画の妥当性を検証しやすくなります。
なお、開示の対象となるのは本部が組織的に把握している情報です。また、特定の加盟店が識別されないよう配慮した形で開示される点にも留意が必要です。
※参照元:一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会「改正中小小売商業振興法施行規則に関するQ&A」 (https://www.jfa-fc.or.jp/particle/3758.html)
法定開示書面は分量が多く、受け取っただけで確認が形式的になりがちです。新規事業としての投資判断に直結する項目を中心に、優先的に読み込むことをおすすめします。
直近3事業年度の貸借対照表・損益計算書から、本部の収益構造と財務の安定性を確認します。加盟店からのロイヤルティ以外に収益源があるのか、債務の状況はどうかといった点は、長期的な支援体制の裏づけになります。
フランチャイズ契約は数年単位の投資回収を前提とします。契約期間中に本部の経営が傾けば、ブランド価値もサポートも維持されません。
加盟店数の推移では、総店舗数が増えているかどうかだけでなく、開店数と閉店・契約解除の件数を分けて確認します。
純増数だけを見ていると、出店と退店の両方が多いのか、退店がほとんどないまま積み上がっているのかという違いが見えません。退店が少ないチェーンであれば、加盟後の収益が計画どおりに立っている裏づけになります。退店がある場合も、立地要因なのかオーナーの事情なのか、本部に背景を確認しておくとよいでしょう。
直近5事業年度の訴訟件数は、本部と加盟者の関係性を推し量る手がかりです。件数が多い場合は、どのような内容の争いが起きているのかを本部に質問しましょう。
ロイヤルティの算定、中途解約時の違約金、ドミナント出店といった争点は、自社が加盟した後に直面し得る論点でもあります。
ロイヤルティには、売上高に対する率で決まる方式、粗利益に対する率で決まる方式、月額固定の方式、立ち上げ期間だけ利益連動とする方式など、さまざまな設計があります。どの方式が優れているということではなく、事業モデルに応じて本部ごとに設計が異なります。
たとえば定額方式は売上が伸びたときに負担割合が下がり、利益連動方式は立ち上げ期の負担が軽くなるというように、特徴はそれぞれ異なります。自社の収支計画に当てはめたとき、月次の負担がいくらになるのかを算定基礎までさかのぼって確認し、計画に正しく織り込むことが大切です。
なお、公正取引委員会のガイドラインでは、ロイヤルティの算定方法について十分な説明を行わず、実際より低い金額であるかのように開示する行為は問題となり得るとされています。算定方法が明確に説明されているかどうかは、書面を読む際の確認ポイントのひとつです。
自社の商圏に本部や他の加盟者が出店する可能性があるかどうかは、売上予測の前提に関わります。
テリトリー権を契約で明文化する本部もあれば、出店候補地の選定段階で商圏の重なりを調整する本部もあり、設定の有無だけで優劣が決まるものではありません。明文の規定がない場合は、出店候補地をどのような基準で選定しているのか、近隣への出店を検討する際に加盟者と協議する運用になっているのかを確認しておくと、認識の齟齬を防げます。
契約終了後に同種事業を行えない期間や地域が広範に設定されていると、将来の事業展開が制約されます。既存事業との関連性がある業種に加盟する場合は、自社の本業に影響が及ばないかも含めて検討が必要です。
撤退判断の自由度を左右するのが、中途解約の可否と違約金の算定方法です。違約金の設計は本部によって異なり、残存期間に応じた算定を行う例もあれば、設定を置かない例もあります。
法人として投資を行う以上、事前に撤退基準を設定しておき、その基準で撤退した場合にどれだけのコストが発生するかを試算しておきましょう。ここが明確に書かれている書面は、加盟後の判断もしやすくなります。
法定開示書面の交付・説明義務に違反した場合、主務大臣から適切な交付・説明を行うよう勧告が行われることがあります。勧告に従わない場合は、その旨が公表される可能性があります。
実際には達成が困難な予想売上の提示、ロイヤルティ負担を実際より軽く見せる説明、高額な違約金を開示しないままの勧誘などは、独占禁止法上のぎまん的顧客誘引に該当するおそれがあるとされています。
予想売上や予想収益を提示する場合は、類似した環境にある既存店舗の実績など、根拠のある事実と合理的な算定方法に基づく必要があり、本部はその根拠を加盟希望者に示す必要があるとされています。実績に基づいた収支モデルを根拠とあわせて示している本部であれば、加盟希望者はそれを自社の条件に置き換えて検証できます。
多くの本部は、法令やガイドラインを踏まえて必要な情報を書面で開示し、読み合わせの場を設けています。一方で、書面が交付されない、あるいは記載が著しく不十分なまま契約を求められるような場合は、その時点で加盟判断を保留すべきです。
法律上、交付から契約締結までの日数が定められているわけではありませんが、内容を社内で検討し、専門家に確認する時間を確保できるかどうかは、確認しておきたいポイントです。読み合わせの場で出た質問と回答は、議事録として記録に残しておきましょう。
※参照元:公正取引委員会「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方」 (https://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/franchise.html)
法定開示書面には、財務情報、契約条項、店舗運営条件が混在しています。新規事業担当者が単独で読み解くには範囲が広く、見落としが生じやすい書面です。
財務情報は経理・財務部門、契約条項は法務部門または顧問弁護士、収支モデルは経営企画というように、項目ごとに確認者を割り当てるのが現実的です。
読み込みの過程で出た疑問は、口頭で済ませず書面やメールで照会し、回答も文書で受け取ります。回答の具体性やスピードは、加盟後のサポート品質を推測する材料にもなります。
取締役会や稟議での説明資料には、本部提示のモデル収支だけでなく、法定開示書面から読み取った加盟店数の推移、類似店舗の実績収支、撤退時の違約金試算を併記します。リスク情報を含めて意思決定を行うことで、加盟後の想定外を減らせます。
このサイトでは、様々な業界のフランチャイズを掲載しています。トップページでは法人の新規事業におすすめのフランチャイズを目的別に3社紹介していますので、これから新たな事業を展開したいとお考えの方は、ぜひ参考にしてください。
法定開示書面は、中小小売商業振興法に基づき、小売業・飲食業のフランチャイズ本部が契約前に交付・説明する義務を負う書面です。本部の財務状況や加盟店数の推移、訴訟件数、契約条件など、加盟判断に必要な情報が一通り記載されています。
2022年4月施行の改正では、立地条件が類似する既存店舗の直近3事業年度の収支が開示事項に加わり、実績に基づいた検証がしやすくなりました。
法人が新規事業としてフランチャイズに加盟する場合、投資額も撤退コストも個人事業より大きくなります。交付された書面を受け取って終わりにせず、各項目を社内の関係部門と専門家で分担して検証し、疑問点は書面で照会する。この進め方が、加盟後のトラブルを防ぐもっとも確実な方法です。
Q. サービス業のフランチャイズでは、法定開示書面をもらえないのでしょうか?
A. 中小小売商業振興法の交付義務は小売業・飲食業の特定連鎖化事業が対象のため、サービス業では法律上の義務が及ばない場合があります。ただし、日本フランチャイズチェーン協会の会員本部は自主基準に基づく「フランチャイズ契約の要点と概説」を作成しており、同等の情報を提示できる本部も少なくありません。義務の有無にかかわらず、同じ内容の書面を求めてみることをおすすめします。
Q. 法定開示書面は契約の何日前までに交付されるものですか?
A. 法律で具体的な日数が定められているわけではなく、「契約締結前」に交付・説明することが義務づけられています。実務上は、社内の関係部門や外部専門家が内容を確認する時間を考慮し、十分な検討期間を確保できるよう本部にあらかじめ相談しておくとよいでしょう。検討スケジュールを共有しておけば、本部側も説明の場を設けやすくなります。
Q. 法定開示書面に書かれた予想売上は、そのまま信頼してよいのでしょうか?
A. 予想売上や予想収益を提示する場合、本部は類似した環境にある既存店舗の実績など根拠のある事実と合理的な算定方法に基づく必要があり、その根拠を示すことが求められています。本部が実績に基づく数字を開示している場合も、出店予定地の商圏や自社の人員体制は店舗ごとに異なります。算定根拠の説明を受けたうえで、自社の条件に置き換えた収支計画を作成し、保守的なケースもあわせて検証しておくと、投資判断の精度が高まります。
Q. 法定開示書面と契約書の内容が食い違っている場合はどうすればよいですか?
A. 締結後に当事者を拘束するのは契約書の条項です。食い違いがある場合は、契約前に必ず本部へ照会し、どちらが正しいのかを書面で確認してください。開示内容と異なる条件で契約を求められた場合は、その理由の説明を受けたうえで、法務担当者や専門家を交えて判断することをおすすめします。
Q. 本部が法定開示書面を交付しなかった場合、どうなりますか?
A. 交付・説明義務に違反した本部は、主務大臣から勧告を受けることがあり、勧告に従わない場合はその旨が公表される可能性があります。また、情報提供が不十分なまま契約に至った場合、民事上も説明義務違反として損害賠償や加盟金の返還が問題となることがあります。交付されない時点で、加盟の判断はいったん保留すべきです。




【注釈】
※1 リユース経済新聞( https://www.recycle-tsushin.com/news/detail_5804.php)
※2 厚生労働省( https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001099975.pdf)
日経コンパス( https://www.nikkei.com/compass/industry_s/0901 )
※3 株式会社AZWAYによるネットアンケート『「2024年にチャレンジしたいこと」1位:健康・美容、2位:スキル取得・向上、3位:副業、4位:運動・筋トレ』
( https://azway.co.jp/media/challenges-2024/)